断片となった世界に 2012


藪前知子

(東京都現代美術館学芸員 Museum of Contemporary Art, Tokyo) (Japanese text only)

 

 

 大画面にクローズアップされた、強い印象を残す人物像で知られる小村希史。小村希史は、そのキャリアに関わらず、国内での発表の機会がごく限られた作家のひとりである。その理由のひとつは、美術ではなく音楽を出発点とする、特異な経歴にあるだろう。

 

 

高校卒業後、当時ニルヴァーナを始めグランジ・ムーブメントの中心にあったシアトルに移り、アンダーグラウンドのカルチャー・シーンに飛び込む中で、マイク・ケリーらの知己を得て大きな影響を受ける。さらにオルタナティブな表現の方向性を突き詰めた結果、音楽よりアートの分野に興味の中心が移っていったという。この出自に関して思い浮かぶのは、彼の作品の、分有主義とも言うべき側面である。先に触れた震災直後に描いたドローイングは、一枚ずつ安価で購入可能な形で出品された。ミックステープやジン、小さなドローイング・ポートレイトなども併せて、作品が分有される消費のシステムを作ることは、小村にとって単に経済的な理由だけではない意味を持つように思える。ポップ・カルチャーの影響や、イメージ消費のスピードについての彼の関心に加えて、そこに、複数で分かち持たれることにより、統一的な「全体」や「中心」が立ち上がることを回避する欲求をみることができるのではないか。

 

 

小村の絵画作品もまた、そのような複数の不完全な存在の集積であり、それらが取り囲む中心は、不可視のまま残されている。それは、埋め合わせ方が人の数だけ異なるような、決定されない開かれた何かである。そのありかたに、震災後の人々が行ってきた、状況に対する様々なレベルでの抵抗の動きが、重なって見えはしないだろうか。